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福岡高等裁判所 昭和48年(ラ)9号 決定 1973年3月29日

抗告人

田中広

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は、別紙記載のとおりである。

抗告理由一について。

競売法第二九条第一項、民事訴訟法第六五八条第一号により競売期日の公告に競売不動産の表示を記載することを要するとしたのは、これによつて競売不動産を特定するとともに、他の公告記載の要件と相まつて、競買希望者に競売不動産の構造、面積等の実情を知らせて競買申出価額算定の標準を与え多くの有利な競買人を得て、債権者の満足をはかり、他方債務者の利益を保護するためである。したがつて、競売不動産の面積の公告記載と実測とに相違があつても、右の競売期日の公告に不動産の表示を記載する趣旨に反するものでなければ、これをもつて違法な公告ということはできない。

本件記録によれば、本件競落許可決定の前提となつた競売期日の公告には、登記簿面積に従い別紙目録のとおり記載されておりその本件(1)ないし(3)の土地の登記簿上の面積は合計六四三平方米であるが、その実測面積は合計669.1平方米であり、これを含む本件(1)ないし(4)の不動産の評価人の評価額は金三〇八万九、六二〇円(土地は登記簿面積により一平方米当り金二、〇〇〇円として算出。)であつたところ、執行裁判所は第一回競売期日の最低競売価額を金三〇九万円と定めたが、競売期日に競買の申出がなかつたので、順次これを低減し、本件競落許可決定の前提となつた前記第三回競売期日の最低競売価額は金二六一万四、〇〇〇円と定められ、同額で競落されたものであることを認めることができる。

右認定事実によれば、本件公告において、その競売不動産の表示は、その特定に欠けるところはなく、公告記載面積と実測面積の相違も著しいものではなく、したがつて評価額の相違も著しいものとはいえないのみならず、最低競売価額も最初のそれからすでに金四〇万円余を減じているのであるから、本件公告の不動産の表示は、前記の競売期日の公告に不動産の表示を記載する趣旨に反するものとはいえない。そこで、本件公告の不動産の表示は違法といえず、抗告人の主張は理由がない。

同二について。

本件記録によれば、評価人の本件競売不動産の評価額は、その固定資産課税台帳記載の評価額の約二倍であり、右評価額を基準にして定められた当初の最低競売価額が二回低減され、最終の最低競売価額で競落されたことを認めることができるので、右評価人の評価額は必ずしも低廉であるとはいえないのみならず、評価人の評価額が低廉であるということは民事訴訟法第六八一条、第六七二条所定の競落許可決定の抗告理由とはなりえないので、抗告人の主張は理由がない。

同三について。

任意競売の競落許可決定に対し利害関係人が抗告できるためには、民事訴訟法第六八一条、第六七二条の事由があり、しかも右決定により損失をこうむる場合でなければならない。ところが、抗告人主張の本件競売不動産に対する貸借が賃貸借であるとしても、これが公告に掲載されなかつたことにより、債務者兼所有者である抗告人が損失をこうむることは通常考えられないところであり、抗告人も損失をこうむる事情についての主張もしていないので、抗告人の主張は理由がない。

その他本件記録を精査しても、原決定にはこれを取り消すべき違法は見当らない。

そこで、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし抗告費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(内田八朔 矢頭直哉 前田一昭)

〔抗告の理由〕

一 競売物件たる飯塚市大字大日寺字浪堂五一二番五六山林二六七m2は債務者が実測するに二八七m2あり(登記面二六七m2)登記面のまま競売されるときは、平米当り金四千円として(近隣地の売買取引の実績価額は平米当り、ゆうに金四千円以上)二〇m2の価格金八万円相当の損害となる。

二 本件物件につき評価人の評価は、山林(現況宅地)は平米当り金弐千円となつているが、近隣地の実際売買価格を参考にすると平米当り金四千円以上に相当し、又建物は建築材料その他の急騰に随れ既存建物も値上りし、評価人の評価では平米当り金壱万四千円と評価しているが、時価は平米当り金弐万五千円に相当する。之を計算すると五八二万二、七五〇円(山林二〇m2不足分を加入)となる。従つて競落人が四百万円で競落すると金百八拾弐万余円の損害となる。

三 本件建物には賃借人桜木俊一が建物全部を賃借しており、賃貸借取調書記載の如く賃借部分は八畳一間のみでなく全部なること又賃料は無償でなく賃料一月金五、五〇〇円を支払つている。要するに賃貸借関係が事実に反し後日紛議のおそれがある。

以上の如く債務者兼所有者たる抗告人に不利な条件で競売されたので競落許可決定に対し不服であり、抗告趣旨のとおりの裁判を求めるため抗告に及びました。

目録<省略>

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